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【オリジナル創作小説】またわれのたび その8 - あたうる興業【ブログ版】
グスタフの顔に一瞬陰りが浮かんだことに、またわれは気づきました。仕事で何かイヤな思いをしたのだろうか。
少しこのグスタフという男に興味が湧いてきたので、またわれはさらに雑談を振ってみることにしました。
「グスタフは、これまでにどんな仕事をしてきたんだい?」
「俺は学がないからな、若いころは港で荷運びをやってた。ある時大工の親方に声をかけられて、それからは大工仕事をやるようになったんだ」
「大工なのか。じゃあこれから行く大きい街でも、大工の仕事を探すつもりだったんだね」
「いや、大工はもうできない」
またわれは首をかしげました。大工なのに大工ができないとは、一体どういうことなのだろう。
再びグスタフの顔を見やれば、ハッキリとわかるくらいに暗く落ち込んだ表情をしています。
「できないって、なんで」
「作業中の現場で、急に足場が崩れてな。巻き込まれて下敷きになったんだ。幸い命は取り留めたが、腕に麻痺が残って仕事はもうまともにできなくなったのさ」
またわれは、グスタフの手がしっかりと自分の葉っぱを握りしめているのを見ると、今度はもう片方の腕を見つめました。
いたって普通に下げられており、見た目だけでは麻痺があるようには思えません。
「こっちの腕かい?でもさっきこまたわれを捕まえようとしたじゃないか」
「とっさに手が出ただけで、握力はそんなにないんだ。だから脇に抱えるようにして持っていこうと思ったんだが・・・」
「こまたわれは素早いからね。簡単には捕まらないよ」
「まあお前一本でも、見せ物としちゃ十分だ。こんな変な生き物、そうそういるもんじゃない」
変な生き物と言われたまたわれは、若干イヤな気分になりました。そりゃあ確かに割れてはいるけどそこまで言わなくてもいいんじゃないか、と。
次回へ続く