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【オリジナル創作小説】またわれのたび その12 - あたうる興業【ブログ版】
近づくにつれて、段々と顔がはっきり見えるようになってきます。そこにいたのは白い口髭をたくわえた、温厚そうな老人でした。
「この世界には、普通の人には見えない妖精が住んでおる。その大根も、そういった類のもんじゃと思うがな」
「ん?おじいさんにも、僕のことが見えているのかい」
疑問に思ったまたわれが思わずそう言うと、老人は静かにうなずきました。
「昔からその手のものには縁がある。大人になると見えなくなる事も多いんじゃが、わしは今でも見る力が残っておっての」
「さっきあんた、波長がどうのと言ってたがその波長ってのは何なんだ?」
自分と同じようにまたわれが見える人間に会ったことで少しホッとしたのか、グスタフが老人にそうたずねました。
老人は少し首をひねって考えてから、静かに語りだします。
「うーん、そうじゃなあ・・・人間にも、気の合う者と合わない者がおるじゃろ。妖精でも自分と相通ずる所のある者は、波長が合って姿が見えることがあるんじゃよ」
「そうなのか。じゃあグスタフにも、またわれ大根の僕みたいな所があるってことだね」
グスタフと気が合うのなら、友達にもなれるかもしれない。そう考えるとまたわれはちょっと楽しくなって、クルクルと回るダンスを踊りました。
一方グスタフは不満げです。苦虫を嚙み潰したような顔で踊るまたわれを見ています。
「おまえみたいなのと一緒にすんな!くっそー、これじゃこいつを見せ物にできないじゃねえか」
対照的な反応の二人を眺めながら、老人はホッホッホと愉快そうに笑いました。
「見えない者を見せ物にするのは無理じゃろうなあ。お前さん、なぜそんな事をしようとしてたんじゃ」
「金も職もないからだよ。生きてくためには金がいるだろ」
「グスタフは昔大工をしてたんだけど、事故で片手が麻痺して働けなくなったんだって」
「おい、そういう事を勝手にしゃべるな!」
口の軽いまたわれにイライラしたグスタフは、ちょろちょろ走り回るまたわれを捕まえようとしますがなかなかうまくいきません。
そんな攻防をしばらく見つめていた老人は、ポンと手を打って頷きました。
「なるほどなあ。これもひとつの縁じゃな・・・」
次回へ続く