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【オリジナル創作小説】またわれのたび その13 - あたうる興業【ブログ版】
「縁?なんの縁だよ」
老人の呟きを聞いたグスタフが、またわれを追いかける手を止めて問いかけます。
「わしは靴屋なんじゃが、もう年だし後継者もおらんので店を閉めようかと思っておった。グスタフと言ったか、お前さんわしの弟子にならんか?」
老人からの不意の提案に、グスタフは驚きました。逃げ回っていたまたわれも、ピタリと動くのをやめて二人の動向を興味しんしんといった顔で伺います。
これは面白くなってきたぞ。
またわれは声に出さず、胸の内でひそかにそう思いました。
「靴屋っていったって、俺は手が動かねえんだぞ」
「片手が使えずとも、大工ほど危険はないしな。補う方法はいくらでもあるじゃろ」
いい話なんだから、受けない手はない。背中を押してあげなくちゃ。
戸惑うグスタフの様子を見てそう感じたまたわれは、自分も何か言わなきゃと拳を振り上げました。
「仕事を探してて、働く気もあるんだからやってみたらいいんじゃないの。手のことだって、おじいさんは気にしないって言ってくれてるんだしさ。こんなチャンス、二度とないかもしれないよ」
初めは自分の事を見せ物にするために捕まえた人間なのに、不思議とまたわれは力強くグスタフを説得しようとしていました。
彼も僕と似たまたわれなのだとしたら、なんとかして救いたい。幸せになってほしい。
またわれのそんな想いが伝わったのかはわかりませんが、グスタフは長い沈黙の後に口を開きました。
「わかったよ。靴屋なんて俺に務まるのかはわからんが、イチかバチかやってみる」
「やったー!その意気だよグスタフ。僕は応援するから頑張れ!」
グスタフの新たな決意に、またわれは飛び上がって喜びます。
きっと彼は、これでうまくいく。根拠はないけど、またわれはそう確信していました。
次回へ続く