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【オリジナル創作小説】またわれのたび その11 - あたうる興業【ブログ版】
グスタフは驚いて、手に握ったまたわれを見ました。そこには確かに、葉っぱを握られて大人しくぶら下がっている大根がいます。
「あるじゃないか、ホラこれだよこれ!」
「何も持ってないのに、どうやってパフォーマンスするんだい。おかしなヤツだなあ」
通行人はそう言って、さっさと歩いていってしまいました。どうやら、またわれを見せ物にする以前に明らかにしなければいけない問題があるようです。
「あの人は、本当に僕のことが見えてなかったんじゃないかな」
「なんだって!?おい、どういう事だよ!」
道行く人が奇妙な物を見る目で、グスタフのことをチラチラと見ています。
またわれが見えていないのであれば、完全に独り言を大声で叫んでいる人ですから無理もない反応でしょう。
グスタフは広場を抜け出し人気のない路地へと駆け込みました。
「一体どうなってるんだ。ちゃんと説明しろ」
「うーんとねえ、実はグスタフと会う少し前に実験をしてたんだよ。人間に僕たちの姿が見えてるのかどうか確かめようと思ってさ」
またわれはポリポリと体を掻きながら、これまでの経緯を思い出しつつ語りました。
「それで、どうだったんだよ」
「何日か普通の大根のフリをして道に寝転がってたんだけど、通る人達はみんな素通りしていったよ。だから、これはもう見えてないんだろうと思って踊ってたらグスタフが来てさ」
グスタフは言葉もなく、目の前にいるまたわれをまじまじと見つめています。
やがて、絞り出すような声で呟きました。
「・・・じゃあ何で俺にはお前の姿が見えるんだよ」
「よくわかんない」
「そりゃお前さん、波長が合ったんじゃよ」
突然聞こえた第三者の声に、またわれとグスタフは驚いて目を見張りました。慌てて声のした方を向くと、路地の出口付近に背の低い人物が立っています。
逆光で顔の良く見えないその人物は、ゆっくりと驚く二人に近づいてきました。
次回へ続く