あたうる興業【ブログ版】

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【オリジナル創作小説】またわれのたび その10

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【オリジナル創作小説】またわれのたび その9 - あたうる興業【ブログ版】

 

 

またわれはグスタフに聞きました。
 
「見せ物にするっていうけどさ、ずっと大工やってたグスタフが今さら興行師みたいな仕事できるのかい」
 
「やるしかねえだろ。生きて飯食ってくためには、手段なんか選んでられねえよ」
 
「グスタフは、あんまりそういうの向いてなさそうだけどなあ。不愛想だし」
 
「うるせえ!」
 
今度はグスタフが機嫌を悪くしました。
 
自覚のある事を指摘されたから余計に怒ったんじゃないかと、またわれは思いましたがそれを言うとさらに不機嫌になりそうです。
 
そこで、話題を変えてみることにしました。
 
「長いこと大工やってたんなら、元いた街にも長く住んでただろうに。未練はないのかい?」
 
「大きい街の方が、仕事を探しやすいだろ。・・・それに、俺がいなくなった現場でも変わらず働いてる親方や同僚たちを見るのが嫌だったんだよ」
 
「ふーん。みんな冷たいね」
 
「いや、みんなは親切だったさ。事故で職をなくした俺のことを心配してくれてるのはわかってた。でも、そこに戻れない俺には、現場で汗を流す仲間たちが眩しすぎて辛かったんだ」
 

 
そんな事もあるものだろうか。またわれは考えてみます。
 
みんなが当たり前に歩いている道を、ある日突然自分だけが歩けなくなって置き去りにされていくような感じだろうか。
 
かつて仲間たちが出荷されていくトラックを、ひとり見送った自分の過去を思い出しました。
 
それまでは同じ大根だと思っていたのに、またが割れていたので置き去りになったんだった。
 
グスタフもまた、自分と同じような「またわれ」なのかもしれない。
 
そう思うと、少し親近感が湧きました。ならば、またわれでもみんなと同じ道を歩けなくても、違う道なら歩けるのだという事を彼に示してみせなければ。
 
 
次回へ続く