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【オリジナル創作小説】またわれのたび その14 - あたうる興業【ブログ版】
「決まりじゃな。なら、これからわしの店へ案内しよう。・・・おや?大根の君にも、仲間がお迎えにきているようじゃぞ」
「えっ?」
老人が指をさす方向を見ると、路地のゴミ箱の陰からこまたわれがちらりと顔を出して、みんなのやり取りを見つめていました。
「こまたわれ、来てくれたんだ!助かったよ~」
「お話は一通り聞かせてもらいました。さあまたわれさん、我々も行きましょう」
みんなそれぞれの道がある。グスタフもまた、新しい道を見つけたんだ。
ここでお別れなのがわかったまたわれは、グスタフへ最後のひと言を投げかけました。
「新しい仕事が見つかって良かったね。短い間だったけど、グスタフと話せて楽しかったよ。じゃあ、マタネ!」
「おう。・・・捕まえちまって悪かったな。お前も元気でやれよ」
仏頂面だったグスタフの顔に、初めて笑みが浮かびました。相変わらず目つきは悪いけど、とても良い笑顔だとまたわれは思いました。
路地を抜けて光り輝く広場へと出ていくグスタフの背中をしばらく見つめていたまたわれですが、ふうとひと息ついて隣にいるこまたわれの手を握ります。
「こまたわれ、僕らもまた旅を続けよう」
「そうですね。後で、離れていた時のことを聞かせてください」
二人は街を出て、街道脇の草むらを歩いていました。
グスタフの一件で、一部の人間には自分たちの姿が見えるということを学んだので、念のため人目につかない場所を移動しながら旅を続けることにしたのです。
「人間の作った街道を堂々と歩ければ、もっと楽なんだけどなあ」
「仕方ないですよまたわれさん、見つかればまた捕まえられるかもしれませんし」
「グスタフは見た目の割にはいいやつだったんだけどなあ」
「次に出会う人間も、善良とは限りませんよ。バラバラにされて鍋に入れられるかもしれない」
「ひえ~、そりゃ怖い!」
またわれは大げさに驚いてみせました。
元々が食用の野菜なので、人間に食べられたとしてもある意味本望ではあるのです。
でも、せっかく自我が芽生えたのでもう少し気ままに旅をしたい。今はそういう気持ちになっていました。
次回へ続く