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【オリジナル創作小説】またわれのたび その7 - あたうる興業【ブログ版】
一方またわれはというと、葉っぱを握られぶら下げられたまま男の進んでいく街道の先を見つめていました。
街道は細く長く、どこまでも続いているように見えます。またわれは男に話しかけました。
「なあ、別に逃げないからちょっと下してくれないか」
「ダメだ。そういって俺が手を離したら、どこかへ逃げるつもりだろう。さっきの小さい奴みたいに」
「逃げたいわけじゃないよ。自分の足で歩きたいんだ」
またわれがそう訴えると、男はぶら下げたまたわれを顔の前に持ち上げてせせら笑いました。
「足だと?ただの割れ大根風情が人間みたいなことを言うな」
「割れてはいるけど、だからこそ自力で立って歩けるんだよ。僕は自分で歩きたい」
「いいから大人しくしてろ。逃げようなんて考えるなよ」
「ちぇっ」
またわれは仕方なくぶら下げられたまま、男の顔をちらりと見ました。男は街道の先を鋭い目で見つめながら黙々と歩いています。
この男は自分をどうするつもりなんだろう。自分もこまたわれも普通とは違った大根だから、売り飛ばすか見せ物にされるのかもしれない。
またわれは何だか胸の中がモヤモヤしました。大根としては市場にすら出してもらえなかったのに、珍獣としては高い価値がついてしまうのか。
売り飛ばされることよりも、誰かの都合で自分の価値を勝手に決められてしまうことの方が嫌だなと思いました。
「あのさあ。もしも僕らに出会ってなかったら、おっちゃんはどこへ行って何をするつもりだったんだい?」
「おっちゃん言うな。ちゃんとグスタフっていう名前がある」
「そうなのか、よろしくグスタフ。ぼくはまたわれ、見ての通りのまたわれ大根だよ」
律儀に挨拶をしたまたわれを見て、グスタフはボソボソと語りだしました。
「・・・この道をずっと行けば、大きい街がある。そこで仕事を探すつもりだった・・・暮らすにゃ金がいるからな」
「人間はお金が好きだなあ。ぼくらはそんなのなくたって毎日楽しいけど」
「仕事して金稼いで、初めて一人前だ。大人のくせに稼げねえヤツなんて、人間扱いされねえんだよ」
次回へ続く