前回のお話はこちら
何日かそうして辛抱強く道の端に転がっている間に、数人の旅人が横を通り過ぎていきます。
彼らは皆額に汗を浮かべながら、またわれのことなど気にも留めずひたすらに前を見つめ歩き去っていきました。
「やっぱり人間には、ぼくのことなど見えていないんじゃないだろうか。これはいいぞ」
地面に転がりながら、またわれはひとりほくそ笑みました。どうやら自分の予想が当たっていたらしい事に、いたく機嫌を良くしたようでした。
「よーし実験は終了だ。こまたわれ、もうかくれてないで出てきてもいいよ」
周囲をちらりと見渡してから、ぴょんっと跳ね起きてまたわれはこまたわれを呼びよせます。
この数日の間、茂みに潜んでハラハラしながら人間との接触を見守っていたこまたわれが、草を揺らしてそっと出てきました。
「またわれさん、ずっと転がったままで雨風にさらされて大丈夫でしたか」
「平気さ。ぼくは大根だし、暑さ寒さは人間ほど気にしないからね」
またわれは腕をグルグル回したり、腰をぐいっと曲げてみたりしてこわばった体をほぐします。
心配そうなこまたわれに向かって力こぶを作るようなポーズで元気さをアピールしました。
「さて、実験も済んだしこれで人通りの多い道も安心して堂々と歩けるぞ。せっかくだから、人間の旅人たちみたいにこの街道をまっすぐすすんでみようか」
「そ、そうですね。見えていないのならば、人間に混じって歩いたっていいわけですからね」
「そうだよ。ほら、こんな風に踊りまくろうがクネクネしようがどうせ見えやしないんだからさ」
またわれが街道のど真ん中に躍り出てぴょんぴょん飛び跳ねたり、お尻をフリフリしたり自由気ままに踊ります。
「なんだか楽しくなってきたぞ。またわれオンステージだ!ヒャッホー!」
「な、なんだこいつは!大根が喋ったり踊ったりしてるぞ!?」
踊るまたわれの頭上に、またわれともこまたわれとも違う声が降り注ぎました。
驚いたふたりが声の方向を見上げると、やはり驚いた顔をしたひとりの人間が立っていました。
くたびれた服に身を包んだ、あまり人相のよくない中年の男です。彼の視線は明らかに、割れたまたを活かしてすっくと立つ二本の大根を捕らえているようでした。
次回へ続く