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【オリジナル創作小説】またわれのたび その21 - あたうる興業【ブログ版】
「そうだ、おおまたわれはどうしているかな。おおまたわれにも、この事を話したいな」
「そういえば、以前笛を貰っていませんでしたか?あれを吹けば、我々の居る場所に気づいてくれるかも」
こまたわれにそう言われ、またわれはごそごそと頭の菜っ葉の中から草でできた笛を取り出しました。
一見脆そうな笛なのに、不思議と枯れもせず腐りもせずそのままの姿を保ち続けています。またわれはその笛に、思い切り息を吹き込みました。
ピリリリィーーーーーーーーーーーッ!!
高く澄んだ音が、森の中を素早く駆け抜けていっぱいに反響しました。
「へえ、この笛こんなキレイな音がするんだ」
感心して思わずつぶやいたまたわれを見て、こまたわれは戸惑った様子で首を傾げます。
「音?いや音なんて全然出ていないじゃないですか」
「え?」
どうやらこの笛の音は、吹いたものにしか聞こえないようでした。結構な大きさの音だったはずなのに、他のまたわれが近づいてくる気配すらありません。
すぐそばにいたこまたわれにさえ聞こえていないのだから、間違いないだろうとまたわれは思いました。
「おおまたわれは長く生きている大根だから、普通のまたわれにはない不思議な力を身に着けているのかもしれないよ」
「それは・・・あるかもしれませんね。本人に自覚は全くなさそうですが」
ふたりがそんな話をしていると、遠くからドシン、ドシンと地響きのような音が聞こえてきます。その音は段々とこちらに向かって近づいてきているようでした。
「あっ、あれは・・・おおまたわれだ!オーイ!」
やがて大きな白い姿が、ふたりの目に映る距離までやってきます。かつて出会ったその大きな大根は、ドスドスと目の前までやってくるとピタリと止まりました。
次回へ続く
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