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【オリジナル創作小説】またわれのたび その20 - あたうる興業【ブログ版】
森に戻った二人は、他のまたわれ達から隠れるように深い茂みの中で座り込みました。
しばらく言葉を発することもできずに、ただその場でじっとしている事しかできません。
風が、森の木々たちをザワザワと揺らしていきます。何でもない音にすら、海で見た絶望が影を落とし不穏な色を添えているように感じられました。
やがて長い沈黙を振り払い、またわれがぽつりとつぶやきます。
「ぼくはどうすればよかったんだろう。本当に彼らを救うことはできなかったんだろうか」
「少なくとも彼らは、僕たちに救われる事すら望んでいなかったような気がします」
こまたわれはそう答えると、力なくうなだれました。あの場から離れたはいいものの、何もできなかった自分のふがいなさに打ちひしがれているのは明白でした。
またわれは膝を抱え、体を丸めて考えます。
絶望を打ち消すものがあるとするならば、それは希望だ。
誰からも求められず邪魔にされ、見捨てられたまたわれ大根達に希望となる物を示すことができれば、彼らを死への憧れから引き離すことができるかもしれない。
「・・・こまたわれ、村を作りたいな」
「村、ですか?」
「ぼくらのようなまたわれ大根が誰からも拒絶されず、安心して穏やかに暮らせる場所があれば、あんなふうに死ななくちゃいけない大根を減らせると思うんだ」
「そうですね・・・またわれ達が集まって暮らせる村があるという事が広まれば、希望を持って村にやってくる大根もきっといるでしょう。僕たちみんなが死を選ばずに、生きるための場所。素敵ですね」
不意に思いついたアイディアではあったものの、それはなかなか良い方法のように思えました。
またわれのまたわれによる、またわれのための理想郷。
そんな物があったなら、きっと毎日が素晴らしく楽しいものになるだろう。割れ大根だと必要以上に自分を卑下することもなくなるはずだ。
手ごたえを感じたまたわれは、すっくと立ちあがりました。
「よし、決めた。旅をして、村作りにちょうどいいような場所を探そう。広くて自然がいっぱいで、人間も寄ってこなさそうな安全な土地がいいな。そういう所を見つけたら、旅を終えて開拓に移ろう」
「どこまでもお供しますよ、またわれさん。一緒に魅力的な良い村を作りましょう!」
こまたわれも立ち上がります。進むべき道を見つけた二人に、もはや迷いはありませんでした。
次回へ続く
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