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【オリジナル創作小説】またわれのたび その18 - あたうる興業【ブログ版】
「へー、すごいや!これが海か!」
「すごく広いですねー。向こう側までずっと水ですよこれ」
またわれとこまたわれは、初めて見る海の様子に心を躍らせ大はしゃぎ。
喜ぶ二人をちらりと横目で見たリンカーは、波のうねる海へと視線を移します。
「・・・もう海は見たんだ、気は済んだだろう。さっさと立ち去ってくれないか」
リンカーのつぶやきに、二人は驚いて顔を見合わせました。
「いやいや、せっかく一緒にここまで来れたんだからもっと何か語り合おうよ」
「またわれ仲間同士、仲良くしませんか?」
初めての海の感動を共有したいという二人の気持ちに、リンカーは冷や水を浴びせるような言葉を投げかけました。
「馴れ合いたいわけじゃない。・・・ここへは、死ににきたんだ。うるさいのがいたら落ち着いて死ねやしないだろ」
強い海風の吹く崖の上に、しばしの沈黙が訪れます。
重たい空気を押しのけるように言葉を絞り出したのは、こまたわれでした。
「死ぬって・・・なぜです?何も死ななくてもいいでしょう?」
「僕はまたわれだ。認められもせず、行く当てもなけりゃ帰る場所もない。無意味な命さ」
リンカーは肩をすくめて静かに首を振ります。ぽかんとそれを眺めていたまたわれが、突然大声を上げました。
「無意味なんて事あるか!意味が必要なら自分で作ればいいだろ」
「君ならできるんだろうな。でも僕には無理だ、頼むから死なせてくれ」
またわれの説得に耳を貸すこともなく、リンカーはじりじりと崖のふちへ移動します。
気が付けば、そんな三人を取り囲むようにたくさんのまたわれ大根たちが集まってきていました。
次回へ続く