前回のお話
川で水あびをした後再び歩き出したまたわれは、ふとある事に気がつきました。
「ところでこまたわれ、さっききみと話していたとき自然に体の横から腕が出てきたんだけど」
「そういえばそうですね。いつの間にか、私にも腕がはえてました」
「なんだか人間みたいなカタチになったなあ。でも、これはこれでいいね」
またわれは、新しくできた腕をパタパタと振ってみました。足先のように手の先も細くとがっているのですが、不思議と物をつかむこともできるようです。
「この腕、とくに必要ない時はしまっておくこともできるみたいですよ」
「本当だ。これなら、普通のダイコンのふりをする時も困らないね」
またわれがにゅうっと腕をしまうと、もとのふたまたに割れたダイコンの姿に戻りました。こまたわれは自分にはえた腕をじっと見つめながら、ふと思ったことをつぶやきます。
「普通のダイコンは僕たちのようにおしゃべりしないし、人間みたいなことを考えたりもしないんですよね。つまり、自我がない」
「ジガ?それっておいしいのかい?」
またわれはあんまり難しいことを深く考えたりはしませんが、こまたわれはもう少し思慮深い性格のようです。自分たちに起きた変化について、思うところがあるようでした。
「いろんなことを考える力が芽生えた時点で、僕たちはもうただのダイコンではなくなってしまったという事かもしれません」
「まあなんでもいいよ。毎日が楽しければ、ぼくはこまかいこと気にしない」
またわれはフンフンと鼻歌を歌いながらスキップをします。その様子を見て、こまたわれも小走りで後を追いました。
「待ってくださいよ、またわれさーん!」
またわれとこまたわれが共に旅をするようになってから、一週間ほど後のこと。ふたりは大きな山の中を歩いていました。
「この山は大きいねえ。遠くの景色がよく見えるよ」
「そうですねまたわれさん。さあ、もうひとふんばりして山を登りましょう・・・・・・ん?」
山の上のほうを眺めていたこまたわれが、突然足を止めました。つられるように、またわれも山の上へと視線を向けます。
「おや?あの白くて大きなものはなんだろう」
白い二本の柱のようなものが、木々の間からにゅうっと伸びていました。それはやがて上の方で一つにつながり、てっぺんの部分には緑色の草らしきものがはえています。
じっと見ていたこまたわれが、小さな声でつぶやきました。
「あれは、ひょっとして・・・・・・ものすごく大きな、またわれ大根なのでは?」
「なんだって!?そりゃ面白い。もっと近くへ見に行こう」
次回へ続く